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コラム
犬や猫の去勢手術や避妊手術とおすすめする時期について
ワンちゃんやネコちゃんに去勢・避妊手術は必要なのでしょうか。また、手術をする適切な時期はいつごろでしょうか。
家族に迎えられたワンちゃんやネコちゃんは、オスでもメスでも平均して10か月齢までに性成熟を迎えます。性成熟を迎えたワンちゃんやネコちゃんにみられる行動の一例としては、次のようなものが挙げられます。
- オス犬が攻撃的になったり、何にでもオシッコをかけたりする(マーキング)
- 周期的に起こるメス犬の発情出血
- オス猫のマーキング(スプレー行動)や攻撃性、外に出る子の行動範囲の拡大
- メス猫の発情期の鳴き声や行動の変化
これが一緒に生活をするご家族にとって、あるいはワンちゃんやネコちゃんにとって問題になることがあります。去勢・避妊手術は、そのような問題解決策の一つです。
性行動や繁殖行動を抑制するだけではなく、去勢・避妊手術をすることで、予防できる病気もあります。去勢・避妊手術を行うメリットやデメリットを知って、大切な判断にお役立てください。
犬や猫の去勢・避妊手術とは
●オス犬の去勢手術とは
オス犬の去勢手術は、陰茎と陰嚢の間を切開し、陰嚢から精巣を取り除きます。具体的には精巣、精巣上体、精巣に繋がる動脈や静脈、そして精管を処理して切除するもので、全身麻酔をして行う手術です。
●メス犬の避妊手術とは
メス犬の避妊手術は「卵巣子宮摘出術」と呼ばれるもので、卵巣と子宮を取り除く手術です。全身麻酔のもとで開腹手術を行います。
避妊手術は、卵巣と腎臓をつなぐ卵巣堤索(らんそうていさく)と動脈・静脈を処理して卵巣と子宮を同時に摘出するのが一般的です。
●オス猫の去勢手術とは
オス猫の去勢手術はオス犬の去勢手術と手技は同じですが、陰嚢を切開します。切開部位を縫合する必要はなく1週間ほどで塞がります。全身麻酔をして行います。
●メス猫の避妊手術とは
メス猫の避妊手術は、メス犬の避妊手術と手技は同じで、全身麻酔下で卵巣子宮摘出術を行います。
去勢・避妊手術を行う時期
ワンちゃんもネコちゃんも、性成熟を迎える前に去勢・避妊手術をするのがおすすめです。当院では、生後6か月齢以降で行うようにしています。
それぞれの平均的な性成熟は次のとおりです。
- オス犬 生後9~10か月齢
- メス犬 生後9~10か月齢(6~24か月齢と個体差はあります)
- オス猫 生後9~10か月齢
- メス猫 生後6~9か月齢(5~12か月齢と個体差はあります)
性成熟を迎える前で、永久歯が生えそろうときが理想的な時期ですが、このタイミングで確実に手術をすることは、もしかしたら難しいかもしれません。
大型犬では、早期に去勢・避妊手術をすることで、股関節形成不全や前十字靭帯断裂などの関節疾患のリスクや、一部の腫瘍の発生リスクが高まるという報告があるため、1歳前後まで待ってから行うのが良いという見解もあります。
去勢・避妊手術を行うメリットとデメリット
去勢手術の目的は、性行動に関連する問題行動をできるだけ抑えることにあります。第一にワンちゃんやネコちゃんのため、同時に一緒に生活をする家族のための手術です。
●去勢手術を行うメリット
- 予定外の妊娠を予防
- 攻撃性を鎮静化
- マーキングを抑制
- 生殖器に関連する病気の予防
●去勢手術を行うデメリット
去勢手術は全身麻酔で行われるため、全身麻酔によるリスクや、手術による合併症のリスクがあります。合併症とは、手術に関連した問題点のことですが、ワンちゃんやネコちゃんの去勢手術で重大な合併症がみられることはまれです。
○可能性のある合併症
- 手術部位、切開部位の腫れ
- ワンちゃんやネコちゃんが傷口を噛んだり舐めたりして開いてしまうこと
- 手術部位からの出血
- 手術のために使った糸に反応する、縫合糸反応性肉芽腫
(当院では電気メスによるシーリングで血管を処理するので、糸を使用する部分は通常よりも少ないです) - 尿失禁
- 内分泌性脱毛
- 行動の変化
- 手術後の肥満
●避妊手術を行うメリット
避妊手術のメリットは、去勢手術と同じように、予定しない妊娠を予防することで、そのほかには、次のようなものが挙げられます。
- 発情の抑制
- 生殖器に関連する癌の発生率を劇的に低下させる
- 生殖器に関連する病気の予防
●避妊手術を行うデメリット
避妊手術も去勢手術と同じように全身麻酔をして行われます。そのために、全身麻酔によるリスクを考えておかなければなりません。
全身麻酔によるリスクの他にあるデメリットは、次のような合併症です。
- 腹腔内出血(卵巣動脈、卵巣静脈、子宮動脈、子宮静脈)
- 尿管の結紮
- 切開部位の腫れ、痛み、内出血
- 切開部位やその下にある皮下組織に漿液がたまる
- お腹に残る卵巣動脈や卵巣静脈、また子宮の切断部位に起こる肉芽腫
- 尿失禁
- 卵巣遺残症候群
- 術後の肥満
去勢・避妊手術により予防できる病気
●オス犬の去勢手術により予防できる病気
ワンちゃんの去勢手術を行うことで、予防できる病気には、多くの飼い主様にとって予想できるものと意外なものがあります。
○予防できる病気
- 精巣腫瘍
- 前立腺肥大
- 肛門周囲腺腫
- 会陰ヘルニア
- 潜在精巣の腫瘍化
●メス犬の避妊手術により予防できる病気
メス犬の避妊手術を行うことで予防できる病気には、重篤かつ生命を脅かす病気があります。
メス犬の避妊手術は、ご家族に対して必要な情報をしっかりとお伝えし、すすめするようにしている手術です。
○予防できる病気
- 卵巣嚢腫
- 子宮蓄膿症
- 卵巣および子宮の腫瘍
- 乳腺腫瘍、乳がん(悪性乳腺腫瘍)
- 糖尿病におけるインスリン抵抗性
- 腟脱、膣の過形成
- 膣の腫瘍
特に乳腺腫瘍に関しては手術の時期も重要です。
初回発情前で99.5%、初回発情後で92%、2回目発情後で74%が、未避妊の子と比較して発生リスクが低下するので、2回目の発情がくるまでに手術を行うことがおすすめです。
発生割合は、
良性:悪性(乳がん)=50%:50%
と言われています。
●オス猫の去勢手術により予防できる病気
オス猫の場合、去勢手術で予防できる病気には、精巣疾患があります。オス猫の精巣疾患は、その数が少ないために、動物病院で日常的に診察をする疾患ではありません。
手術のメリットは、病気の予防よりも、以下のようなオスとしての行動抑制でしょう。
- 猫同士のケンカ
- マーキング
- 放浪行動
●メス猫の避妊手術により予防できる病気
ネコちゃんの避妊手術で予防できる病気には、ワンちゃん同様、重篤かつ生命を脅かす病気があります。
○予防できる病気
- 乳腺腫瘍、乳腺がん(悪性乳腺腫瘍)
- 卵巣腫瘍
- 子宮腫瘍
- 卵胞嚢腫
- 子宮蓄膿症
ネコちゃんの乳腺腫瘍は85%が悪性のため、予防が重要です。
6か月齢以下で手術した猫で91%、1歳齢以下で手術した猫で86%、未避妊の子と比較して発生リスクが低下すると言われおり、1歳までに手術を行うことをおすすめしています。
まとめ
去勢・避妊手術の目的は、ワンちゃんやネコちゃんにみられる性行動によるストレスを軽減することです。この性行動は、ワンちゃんやネコちゃんだけではなく、一緒に生活するご家族のストレスになることもあります。
マーキングをするオス猫、攻撃的になったり、何にでもオシッコをかけてしまったりするオス犬、周期的に起こるメス犬の発情出血やメス猫の発情期の鳴き声や行動の変化。これらは、自然なことですが、すべてを許容することは困難かもしれません。
生命に関わる病気の予防という目的は、手術をすれば完全に防げるものも、防ぎきれないものもあり、また、手術をしなければ必ず病気になるともいえません。
しかしながら、予防できる病気が発生するのは、麻酔のリスクが高まるシニア期になってからがほとんどです。持病や、その時の体調の悪さのせいで、治療のための手術がやりたくてもできないこともあります。
元気な若い時の避妊・去勢手術で、そういった病気の発生率の低下が見込めるのであれば、やる価値は十分あるでしょう。
動物病院で行われる外科手術は、メリットとデメリットを十分に検討して、メリットが優先される場合に行われます。去勢・避妊手術を行うことは、交配の予定のないワンちゃん・ネコちゃんにとって、デメリットを大きく超えるメリットがあるものです。
シニア期の将来的な病気の発生リスクに備え、日々の生活を穏やかに過ごす。そのために当院では、去勢・避妊手術をおすすめしています。