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院長ブログ
八重と腫瘍②
更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
前回からの続きになります。前回はこちらから → 八重と腫瘍
腫瘍が悪性のものだった場合を考え、可能な限り拡大切除することにしました。

腫瘍に対して根治を目指して手術を実施する場合、腫瘍周囲の正常組織を含んで切除すべきで、その周囲の正常組織を外科マージンと言います。
今回は、写真のように腫瘍から4~5cmくらい外科マージンをとりました。
また、縦方向には腫瘍の下の皮筋と広背筋の筋膜まで切除しました。
手術は無事に終わり、あとは病理検査の結果を待って治療方針を考えることに。

しばらくして、病理検査の結果が返ってきました。
結果は・・・・・血管内皮由来の悪性腫瘍である「血管肉腫」でした。
腫瘍は、皮筋まで浸潤していましたが、広範囲に切除したおかげもあって取り切れているとのことでした。
一番、あってほしくないと思っていた腫瘍で、今までで診察してきた中で最も若い年齢(1歳7カ月)での診断でした。
血管肉腫は、大型犬に比較的多いとされている腫瘍ですが、どの犬種にも発生し、人など他の動物と比較して犬で多い腫瘍です。
脾臓での発生が最も多く、その他には、肝臓、心臓、皮下、筋肉などにも発生します。
最大の特徴は、転移率がとても高いことで、根治が難しい場合が多い、極めて悪性度が高い腫瘍です。
発生場所によって生存期間は、異なりますが、今回の皮下の場合、外科手術と抗がん剤を行って、生存期間中央値は8カ月と言われています。血管肉腫はほとんどの報告で1年の生存率が10%以下となっています。
血管肉腫を摘出した後の抗がん剤は、転移までの期間を遅くさせる目的で行います。
抗がん剤を行わなかった場合と比べて転移までの期間を遅らせることができますが、その期間は数カ月程度の場合が多く、残念ながら多くの症例で最終的には転移してしまいます。
通常多くの抗がん剤は、根治目的で使用するケースは少なく、腫瘍をできる限り抑制し、動物にとってより良い生活の質を維持し生存期間の延長をはかる目的で使用する場合が多いです。
ただ、認識できるような大きさの腫瘍では、その時点で抗がん剤に耐性を持つがん細胞が発生しており根治は難しいですが、ごく少数の認識できないレベルの腫瘍細胞なら抗がん剤で根治を期待して使用することもあります。
今回は比較的早い段階で気づけ、手術でも取り切れていたので、残存しているであろう腫瘍細胞を根絶して完治を目指す目的で抗がん剤を使用することにしました。
腫瘍に対して抗がん剤を行うかは、判断が難しいものもあり、悩む場合も多いです。
当院では、なるべく情報を提供して、飼い主様がより良い判断ができるようにサポートしていきたいと心がけていますので、治療で不安なことがあれば、何なりとご質問ください。
あと、八重は無事クリスマスを迎えることができました。

続く